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2023.11.01
横浜国立大学総合学術研究院には、「豊穣な社会のための防災研究拠点」と連携する「豊穣の社会研究センター」の他に「生物圏研究ユニット」がある。「豊穣な社会のための防災研究拠点」哲学ユニットの榑沼範久は、この「生物圏研究ユニット」の「生物文化多様性ラボ」にも参画し、1年を24/72の季節に区分する「二十四節気七十二候」をお題にした短文を「YNU里山ESD Base」からX(元Twitter)に投稿する企画を共同展開している。現代に生きる私たち自身の視点と「二十四節気七十二候」の交差する場所を扉にして、人を含む生物、自然の織りなす「豊穣な社会」「豊穣な世界」をあらためて描いてみたいのだ。
2023年10月8日、【七十二候】鴻雁来(こうがんきたる)で投稿したのは、日本でアニメ化もされたセルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』(1906-07)についてだった<https://twitter.com/Satoyama_BASE/status/1710812062585434119>。妖精の魔法で小人に変えられたニルスは、飼っていたガチョウ(モルテン)の背に乗り、アッカを主軸とする雁たちに導かれてスウェーデンの旅をする。工業化による開発が進む20世紀初頭のスウェーデン。その地理と歴史の理解を深めることができる物語を書いて欲しいと依頼を受けた小説家セルマ・ラーゲルレーヴは、実地調査と文献調査のすえにこの物語を完成させた。
長い旅も終わりに近づく十月、一行はラップランドから南へ南へと帰還していくのだが、その途上で雁のアッカはニルスにこう伝えた。君が私たちとの旅で学んだことがあるとするなら、人間は人間だけでこの世界で生きているわけではない、ということだろうと。そして、人間に戻らずにいたいと思うようになったニルスだが、物語の最後にニルスは人間に戻り、雁たちの言葉が分からなくなってしまう。雁たちにもニルスの言葉が分からない。悲しい別れがくる。けれども、ニルスは小人のままでいたいと願いつつも、人間として新しく生きなければならないのだ。人間は人間だけでこの世界で生きているわけではない、ということを学んだ人間として。 この物語を「豊穣な社会」研究にもつなげていきたい。
セルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』(1-4巻、香川鉄蔵+香川節訳、偕成社文庫、1982年); (上・下、菱木晃子訳、福音館書店、2007年)。初訳は『飛行一寸法師』(香川鉄蔵訳、大日本図書、1918年)。
2023年10月8日【七十二候】鴻雁来「YNU里山ESD Base」からのX投稿(NK名義)
https://twitter.com/Satoyama_BASE/status/1710812062585434119